せっかく英文を一語一語丁寧に和訳したのに、なぜか満点をもらえなかったということがよくあります。試しに一つ和訳してみましょう。
【問】:My uncle Bob wears a mustache and a cap.
よくある誤答はこんな感じ。
【誤】:ボブおじさんはひげと帽子を着ている。
正解は、
【正】:ボブおじさんはひげを生やして帽子をかぶっている。
です。
肝心な点は、"wear"をどう和訳するか。【問】の場合、"wear"を「着る」と和訳すると十中八九ペケを食らいます。
なぜか。
「ひげ」や「帽子」は「着る」ものではないからです。意味を深く考えず、機械的に英語の一語を日本語の一語に置き換えると、
"wears a mustache and a cap"=「ひげと帽子を着ている」
でよさそうな気がします。
ところが、よくよく考えてみると「ひげ」は「アゴや鼻の下に生える」もの。決して「着る」ものではありません。同じように、「帽子」も「着る」ものではありません。「帽子」は「頭にかぶる」ものです。
試しに「ひげ」と「帽子」を「着た」おじさんを想像してみましょう。と言っても、無理ですね。そもそも「ひげと帽子を着ている」では日本語になっていません。
日本語で「着る」と書かれてあればまず、シャツやブルゾンのような「服」を思い出します。
このように、"wear"を「着る」に置き換えただけではしばしば、日本語として意味の通らない和訳文ができあがります。冷静に和訳を読み返してみると「ひげと帽子を着ている」という日本語は、やっぱり変です。
変の原因はたいてい英文解釈のミスです。この場合は、"wear"=「着る」と解釈したことがミスの原因です。
よって、【問】の英文を意味の通る日本語に和訳すると、
【問】:My uncle Bob wears a mustache and a cap.
【正】:ボブおじさんはひげを生やして帽子をかぶっている。
となります。
ポイントは"wear"の解釈。英文には一つしかない"wear"を「生やして」と「かぶって」の二通りに解釈するところです。日本語で考えると、「ひげ」は「生える」もの、「帽子」は「かぶる」ものです。
英語では"mustache"も"cap"も"wear"一語で表現可能です。一方、日本語では「ひげ」と「帽子」を「着る」一語で表現することは、無理です。
そこで、「ひげ」の場合は"wear"を「生やしている」と和訳し、「帽子」の場合は英文には存在しない"wear"を補い、「かぶっている」と和訳します。
まとめると、
"wear"=「着る」のように、英語一語を日本語一語に置き換えただけだと、できあがった和訳文は日本語として意味の通じないことがしばしばあります。和訳文は必ず読み返して、日本語として不自然な点はないかチェックします。
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和訳の仕上げとして《日本語チェック》をしてみて、『不自然な日本語、意味の通らない言い回し』が見つかったら、そこはまず間違いなく減点されます。もう一度英文を読み返して解釈し直し、意味の通る日本語に和訳します。
もう一つ、例文を。
和訳文が日本語としておかしくないか、チェックしてみましょう。
【問】:I had a strange experience yesterday.
ありがちな解答。
【誤】:昨日、私は不思議な経験を持った。
【正】:昨日、私は不思議な経験をした。
機械的な直訳によるミスです。
「経験を持った」と和訳した【誤】は場合によっては、得点ゼロです。
なぜか。
「経験を持った」という日本語はやや意味不明。あまり聞いたことのない「言い方」です。この解答だと、「英文の内容を理解していないので和訳文も意味不明になったに違いない」と見なされます。
「経験」はやはり「する」ものです。
よって正解は、
【問】:I had a strange experience yesterday.
【正】:昨日、私は不思議な経験をした。
となります。
できあがった和訳文を読み直し、日本語として意味不明だったら、迷わず英文を読み返して下さい。どこかで解釈ミスをしているはずです。
【誤】の場合の解釈ミスは、"have + experience"=「経験を持つ」という考え方でした。
"have + experience"=「経験をする」が正解です。
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問題文として出て来る英文はすべて、英語の模範となるような文です。英語として不自然な文章などありません。なので、和訳文もできるだけ日本語らしい文章に仕上げます。
もう一つ例文を。
【問】:Last night I had a dream.
ありがちな誤答。
【誤】:昨日の夜、私は夢を持った。
やはり、機械的な直訳によるミスです。
「夢を持った」と和訳すると場合によっては、得点ゼロになってしまいます。
「夢」はやはり「見る」ものです。
よって正解は、
【問】:Last night I had a dream.
【正】:昨日の夜、私は夢を見た。
となります。
【問】の場合、"have a dream"=「夢を持つ」は誤った解釈です。
"have a dream"=「夢を見る」が正解。日本語としてより自然な文章です。
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場合によっては"have a dream"=「夢を持つ」という解釈で正解のこともあります。実はこの時、"dream"「夢」を“別の意味”で使っています。
もう一つ、"have + dream"を含む文章。
【問】:I had a dream of becoming a scientist long ago.
【誤】:昔、私は科学者になる夢を見た。
【正】:昔、私は科学者になる夢を持っていた。
今度は"have"=「持つ」で正解です。"have"を「見る」と和訳すると、十中八九ペケを食らいます。
よくよく見てみると、【問】の場合の"dream"は睡眠中に見る「夢」ではなく、将来の「夢」やいつか叶えたい「夢」です。
将来の「夢」やいつか叶えたい「夢」は「見る」ものではなく、「持つ」ものです。この意味の「夢」のときはもちろん、"have"をそのまま「持つ」と和訳します。
「夢を持つ」を同じ日本語で言い換えると「願望を持つ、希望を持つ」となります。
通例、「睡眠中の夢の中で科学者になった」はthat + 節を使って、
【例文】:I had a dream long ago that I became a scientist.
【和訳】:昔、私は科学者になる夢を見た。
と言います。
あるいは、"have a dream"を使わずに、
【例文】:I became a scientist in my dream long ago.
【和訳】:昔、私は夢の中で科学者になった。
と言います。
"dream"という単語一つの解釈次第で"have"を、ある時は「見る」と訳し、またある時は「持つ」と訳します。
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同じ単語を状況に応じて二通りに和訳するとは、かなりむつかしい作業のような気がします。しかし、訳し終わった和訳文の《日本語チェック》を行えば、ごく簡単にできるようになります。
和訳文の中で日本語としておかしな箇所は、誰にでもたやすく見つけることができます。見つかったら、元の英文を読み返しながらできるだけ自然な日本語に修正する。これでOKです。
時間が許す限り、和訳文の《日本語チェック》は繰り返して下さい。繰り返した分だけ英文の解釈もより正確になり、和訳文もより日本語らしくなります。